本研究は、自治体が提供する公共サービスの劇的なコスト低減と住民らの満足度の向上を同時に実現することを目論む目標原価管理の意義とその可能性を、質的研究方法に基づいて明らかにしようとするものである。わが国自治体が、財政的困窮を背景として大幅なコスト削減を迫られていることは周知の事実であるが、その一方で、自治体におけるコストマネジメントのあり方やその仕組みについては、十分に解明されているとはいいがたい。わが国自治体におけるコストマネジメント実践においては、コスト削減の必要性ばかりが声高に強調され、その結果、公共サービスの質の低下を招いてしまうというケースが数多く見られている。すなわち、公共サービスの質とコスト削減の間に生ずるトレードオフを解消するための具体的なシステムないしはツールを持ち合わせていないというのが現状である。そこで、研究期間初年度である平成22年度においては、自治体における原価情報の活用とコスト情報の利用が組織行動に与える影響に焦点を当てた先行研究のレビューを行うとともに、わが国自治体は上述した問題に対してどのような取組みを行っているのか、また、コスト情報がどのような場面で利用されているのかを明らかにすべく、群馬県、仙台市、中野区、足立区などをリサーチサイトとするインタビューならびに観察による調査を行った。その結果、コストマネジメントを行うにあたって必要となるコスト情報自体が十分に整備されていないことや、政策的な理由によって、うまく活用されていないということが明らかとなった。次年度は、追加的調査を行うとともに、本研究の成果を論文等にまとめ、国内外の学会で報告する予定である。
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