本研究は、近年の社会学において着目されているアクターネットワーク理論(ANT)の管理会計研究への応用を試みるものである。当該年度においては、ANTが要求する「客観的かつ豊かな質的データ」を入手するべく、京セラ株式会社におけるアメーバ経営について、聞き取り調査を中心に、実地調査を実施した。当該年度内において必要なデータの入手に一定のめどがついたため、事例の記述を中心とした論文の作成に着手し始めており、その成果として次ページのとおり、2本の発表を行った。 現段階においてはアメーバ経営の歴史研究への応用であり、その面においては、これまで明らかにされてこなかった、時間当たり採算と呼ばれる京セラ独自の業績評価指標の発展プロセスを明らかにすることができた。その中では「経営者⇒戦略⇒会計コントロールシステムの確立⇒実行」という直線的なプロセスの中で、戦略の実行手段として受動的な位置づけを与えられてきた会計観とはことなり、むしろ一旦企業内で「公式的な」指標として地位を得た当該指標が、変化する経済・社会情勢や、従業員の感情などを計算構造の中に「取り込み」ながら、変化・発展していくプロセスが明らかになった。これはANTが持つ対称性原則に基づきながら過去のプロセスの足跡を追うことで初めて明らかになった特徴のひとつであると考えられる。ただし現時点においては事例の叙述が中心であり、今後はこの研究を海外の学会やジャーナルにおいて報告・投稿をしていくことで、どのような理論的な貢献が可能になるかを吟味していく予定である。
|