本研究の目的は,環境会計導入企業に起こることが予想される組織変化について明らかにすることであった。そこで,組織を設計原理,サブシステム,解釈スキームの3要素で構成されると見なすLaughlin (1991)のフレームワークを用いた。分析対象企業は,解釈スキームの変化を見るためには,環境会計を長期にわたって導入している企業である必要がある。また,外部報告のための環境会計よりも,環境管理会計として企業内部のマネジメントに活用している企業の方が,環境経営に積極的に取り組んでおり,組織変化を生む可能性が高いと考え,マテリアルフローコスト会計(MFCA)に長期にわたって取り組んでいる企業2社(A社とB社)を対象とした。本年度は,B社の分析を中心に実施した。 B社は2003年にMFCAの導入を試み,その後全社展開を実施した。全社展開を進める中で,MFCA導入とマテリアルロス削減に関するPDCAサイクルを作り,MFCAとマテリアルロスの削減を組織化した。また全社展開後には,MFCAを推進する新たな組織を作成した。つまり,MFCAの導入・推進に伴って,「設計原理」の大きな変化が起こったのである。一方,これに伴う「解釈スキーム」の変化については注意深く考察する必要がある。まず,B社はMFCAを環境経営手法と捉えており,環境負荷とコスト削減を同時に達成しようとしていた。従って,環境負荷削減を第一に考えるというような大きな変化は見られなかった。しかし,MFCAの導入によって,工場の担当者は,金額評価されたマテリアルロスの大きさに驚き,工程にマテリアルのムダが存在することを再認識したのである。この点において,小さな「解釈スキーム」の変化は見られたと言える。
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