研究概要 |
前年度に実施した研究では,国際会計基準審議会(IASB)が2010年9月に公表した『財務報告のための概念フレームワーク2010』(『概念フレームワーク』)の考察を通じて,IASBの開発する会計基準が,実体の意図に基づいた取引を分析し,これを表現するというよりも,実体の意図から切り離された現象を表現することを示唆している点を明らかにした。そこで,本年度は,『概念フレームワーク』と国際財務報告基準(IFRS)との関係を整理し,金融商品,法人所得税およびリースに関する会計基準の開発を検討することを通じて,IASBによるIFRS開発の特徴の抽出を図っている。 まず,『概念フレームワーク』と原則主義に基づく会計基準はともに,単一の会計モデルを志向していると捉え,このような志向に沿って原則主義に基づく会計基準の開発を行うならば,有用となる可能性のある経済現象の定義に基づいて,最も目的適合性が高いと判断する規準,あるいは,その測定属性を決定する規準が,原則主義において核となる原則になるとの整理を行った。次いで,金融商品,法人所得税,およびリースに関するIFRSの開発にみられた事業モデルという考え方の検討を行った。ここでは,事業モデルが『概念フレームワーク』と原則主義に基づく会計基準とを接合する機能を果たし得る可能性に着目していたが,この考え方は,会計上の分類が測定属性あるいは利益計算に関係している場合に,分類されたカテゴリー間の変更を抑制するものとして導入されたものに過ぎないと言わざるを得ないものであった。したがって,IFRSの開発においては,『概念フレームワーク』と原則主義に基づく会計基準との演繹的な関係がピールミール化しており,これに加えて,IFRS相互間の整合性という観点も存在しおり,いわばマトリックス構造の様相を呈しており,かつ,それらの比重の置き方に揺らぎが見いだされる。
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