本年度は,国際会計基準とのコンバージェンスによって,現在,わが国においても開示が義務付けられている包括利益情報に焦点を当て,四半期ベースでの当該情報の有用性について検討した。具体的には,包括利益を純利益とその他の包括利益(OCI)に区分し,その情報内容について,長期と短期のアナウンスメント効果を分析した。分析から得られた主たる発見事項は次のとおりである。まず,純利益情報に対しては,決算発表日周辺だけでなく,決算発表後60日間にわたって,株価は強く反応することが明らかにされた。一方,OCI情報に対しては,短期のみならず,長期分析においても,統計的に有意な株価反応は観察されなかった。この結果については,日本会計研究学会第71回全国大会(一橋大学)で報告し,本年度出版予定(分担執筆)である。 また,国際会計基準のこれまでの大きな特徴は公正価値を重視することであったが,公正価値評価は,包括利益の算定に大きな影響を及ぼす。そのため,公正価値がもたらす景気循環増幅効果について,第35回ヨーロッパ会計学会年次総会(スロベニア)と2012年アメリカ会計学会(ワシントンD.C.)において研究報告を行った。 さらに,IASBは,業績計算書のフォーマットを見直しており,現在,純利益とOCIの区分のあり方について検討している。そこで,この業績計算書のフォーマットに関するIASBとFASBのこれまでの議論を中心に検討し,学内紀要で発表している。 最後に,国際会計基準のアドプションについては,日本と韓国企業の財務担当役員(CFO)に対して,2011年10月~12月にアンケート調査を実施した。その分析結果については,BI Annual Reportと学内紀要で報告している。さらに,企業のIFRSに対する適応能力と理解に焦点を当てた分析も行っており,この結果については,本年度の学内紀要に掲載予定である。
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