平成22年度は次の2点について調査を実施した。まずひとつ目は、森林・林業分野における原価計算・環境会計の先行研究を調査し整理した。具体的には、国有林野事業特別会計における1972年度までの蓄積経理方式(林業会計)、1973年度以降の造林事業の原価計算、UNCTADによる公正価値方式等、国内外の立木原価の決定モデル及び立木蓄積の資産評価モデルを調査して、これらのモデルを、ストックとフローの関係から分析した。また、維持対象となるストック概念が、木材の継続的な利活用や森林の環境的な価値の保全という観点から、何を維持しようとしているのかを整理した。こうして分析・整理した内容から、森林計画における基本的な考え方である保続性原則や持続可能な森林管理の概念という、森林・林業の原価計算・環境会計が考慮すべき特殊性が明らかにできた。さらに、先行研究として存在するモデルは、いずれも造林・育林を対象としているために、新たに包括的な森林・林業の原価計算・環境会計のモデル化する際のネックとなるのは、木材フローを対象とする一連の作業プロセスにおいて、造林・育林の次に続く伐採・搬出ということが特定できた。 次にふたつ目は、伐採・搬出を中心に、森林所有者や森林組合における作業調査やコストストシミュレーションを調査して、調査結果をもとに、標準原価計算のモデル構築を検討した。ここでは、機械化が進んだ作業方式として、兵庫県・丹波市森林組合における搬出間伐(列状間伐)を対象に、選木・伐倒・集材・造材・積込搬出・市場運搬という細かな作業プロセスに区分して、これらの作業プロセスの関係(作業システム)を明確化するとともに、この作業システムを踏まえ、搬出材積あたりの原価を計算する伐採・搬出の原価計算をモデル化した。過去の作業時間データやコストデータ等を用いて、標準作業量として直接作業時間及び機械作業時間を設定したり、標準賃率や標準配賦率等の各種パラメータを決定したり、原価計算モデルを具体化することによって、森林組合は作業を管理し原価管理ができるようになるし、見積価格の算出を通じて明快な見積書が作成できるようなる。
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