日本は持家率が60%を超え、多くの人が自分の家を持ちたいと願う「持家」社会である。企業福祉が縮小し、住宅金融の市場化が進む現在、なぜ住宅を取得するのか、住宅の取得は家族生活にどのような影響があるのかを、大規模縦断的データの分析・インタビュー調査・官庁統計や史料の精査といった総合的なアプローチを用いて検討した。歴史を振り返ると、日本の大企業は福利厚生の一環として社宅の建設や従業員の持家取得を促した。公営住宅の拡充を望む労働組合の動きは大きな力を持たず、政府は1970年代以降、新規の住宅着工による景気の刺激をもくろんだ。近年、社宅も公営住宅も減少している。さらに、住宅金融が市場化し、雇用環境が悪化しており、家計における住宅ローンの負担は高くなっており、家族は妻の労働供給や消費の引き締めで対処している。それもかかわらず持家志向が依然として強いのは、親との同居規範が緩むなど「家族」のあり方が変化しているにもかかわらず、「幸せで豊かな近代家族」像が依然として理想であり続けていることが大きい。
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