本研究の目的は、質問紙調査により、顔に疾患や外傷をもつ人々が就労をめぐって直面している困難を把握することである。本年度行ったのは、昨年度に実施した調査票調査のデータ入力・点検およびデータ分析である。 まず、顔に疾患や外傷をもつ人々の就労の実態を、仕事の有無、雇用形態、職種、1年間の収入などの側面から検討した。その結果、人目につきにくい職種を選択せざるを得ないためにサービス職業には従事できないといった、顔に疾患や外傷をもつ人々に関して先行研究で指摘されているような傾向は確認できなかった。また、顔に疾患や外傷をもつ人々の多くにとって、ウィッグやカムフラージュメイクなど、疾患や外傷を隠すための商品は就労を含めた社会生活を円滑に営んでいく上で不可欠であるが、その購入にかかる費用の負担が大きいことが明らかになった。 次に、顔に疾患や外傷をもつ人々の就労をめぐる困難のうち、職場でのハラスメント被害に注目して分析を行った。回答者の疾患・外傷の種類や程度と職場ハラスメントの被害経験、および社会的スキルと職場ハラスメントの被害経験には関連があるかどうか検討した。具体的には、回答者の「職場ハラスメント被害経験の有無とその頻度」を従属変数、回答者の「疾患・外傷の種類」「疾患・外傷の存在が職場で知られているかどうか」「社会的スキルの高低」を独立変数としてクロス集計を行った。その結果、疾患・外傷の種類や程度および社会的スキルと職場ハラスメントの被害経験の間には、いずれも関連がみられなかった。 以上の成果の一部を小冊子『見た目問題と就労』にまとめ、調査協力を得た当事者団体にフィードバックした。
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