前世紀の初めに誕生して以来、フォード生産システムは世界規模で広がった。しかし、このシステムは、大量生産・大量消費の時代には効率性が高かったものの、前世紀の終わりには、限られた資源をより効率よく活用し、労働者の「参加」を促し「やる気」を引き出すトヨタ生産システム(TPS)に取って代わられるようになった、と言われる。 TPSの定着や広がりはもはや自明とみなされる。しかし、TPSの導入や定着は、システムに内在した「合理性」や「メリット」により自然と単線的に進むわけではない。放っておけば、現場はすぐに「元に戻って」しまう。そこで、個々の企業内と企業を取り巻く環境の中で、TPSを定着させるための「仕掛け」と「力」が必要となるのだ。本年度は、岐阜県のK市で行われているTPSの導入活動に密着し、その点をマクロレベルから明らかにした。 岐阜県は、平成20年度より「『ムダ取り』推進事業費助成金を創設し、「県内中小企業の現場の生産性向上や改善により、各企業の収益力を高めるための活動をモデル的に支援」している。なかでもK市の金属団地では、積極的に地域企業が「カイゼン」に取り組んでいる。月に一回の頻度でカイゼン活動の発表会が行われ、各企業の成果が披露され、不十分な点が指摘され、そして次回の発表までの課題が指示される。この活動のモデルは、「トヨタ生産方式自主研活動」(「トヨタ自主研」)であり、それは下請企業を含めたトヨタグループ全体にTPSを浸透させる上で非常に大きな役割を果たしてきた。K市のカイゼン活動の参加企業は、ほとんどが取引関係がなく、そこまで「徹底した活動」が展開されているわけではないが、地域社会での元々のつながりも契機となり、業種を超えてTPSの導入が図られている様子が明らかになった。
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