一昨年度は、産業政策としてのトヨタ生産システム(TPS)の導入支援を明らかにし、昨年度は、複数の地域企業における導入事例の調査を行った。本年度は、企業の現場に焦点をあてて、ミクロの場から導入過程と働く場への影響について調査した。 既存の企業にTPSを導入する場合、実際に働いている者からすれば、カイゼン活動を行わなくても不都合はない。なぜなら、現状でも職場は「回っている」からである。したがって現状に手を加えることは難しい。現状を変えようとすれば、現場からの反発や非協力的な態度に遭遇することも珍しくない。それらを排してまでカイゼンを行うには、強制力と持続力が必要となる。しかし、中小企業の多くはそれらの力を持ち合わせておらず、形だけの提案活動で終わっているのが実態である。 カイゼン活動に付随する問題はそれにとどまらない。カイゼン活動とは、既存の生産をより効率的に行うことが目的であり、端的に言えば、コスト削減を意図したものである。しかし、これだけに力を注ぐと、コスト競争に入り込み、付加価値の高い商品の開発がおろそかになる。大企業であれば、分業体制が確立されており、コスト削減と商品開発とでそれぞれ人材が割り当てられているだろうが、中小企業であると、それぞれに豊富な人材を配するほどの余裕はない。 つまり、カイゼン活動とは、そもそもそれを定着させることは難しく、たとえ定着させたとしてもコスト競争に入り込み、付加価値の高い商品の開発がおろそかになるという、本質的なジレンマを抱えているのである。調査先の中小企業のほとんどは、カイゼン活動が形骸化し、開店休業状態になるか、カイゼン活動に振り回されるかのいずれかであった。
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