研究課題/領域番号 |
22730393
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
猪股 祐介 京都大学, 国際交流推進機構, 非常勤講師 (20513245)
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キーワード | 満州移民 / 歴史和解 / 規律=訓練 / 中国ネット社会 / 戦時性暴力 / ジェンダー / ナショナリズム / ホモソーシャル |
研究概要 |
証言」の時期(1965-90年)における、満洲移民の言説の収集・整理・分析と、『満洲開拓史』の刊行とそれに続く各県・各団単位の『開拓史』刊行について、『開拓史』の編纂過程における、地域社会・満洲移民関連団体・体験者の社会関係と、各々の満洲認識を明らかにした。具体的には、以下の3つの成果を収めた。 第一に、戦後開拓との連続/断絶である。第二に、満洲縁故者による歴史和解に向けた公共圏の構築である。第三に、敗戦から引揚げまでの、旧満洲における戦時性暴力である。以下、三つに関して報告する。 (1)戦後開拓との連続/断絶について。従来満洲移民と戦後開拓との連続は、満洲経験の共有や人的関係の重なりによって説明された。これに対して、両者の連続性を、戦前の農漁村更生運動と戦後の農村民主化に共通する規律=訓練により説明すべく、婦人会会誌の収集・分析を進めた。 (2)満洲縁故者による歴史和解について。岐阜県の黒川分村遺族会、方正友好交流の会、ハルビン市の日本人遺孤養父母聯誼会を対象に、参与観察及びインタビュー調査を実施した。2012年7月末、ハルビン市郊外方正県中日友好園林に、開拓団碑が設置された。これがネットで広まり中国国内問題化した。本事件より「満洲開拓」は、日中友好にとって大きな障害であることが浮き彫りとなった。 (3)敗戦後の旧満洲における戦時性暴力について。2000年のインタビュー調査の記録を、戦時性暴力とジェンダー及び諸装置(人種・ナショナリズム等)との相関関係において、再分析した。その結果同じ開拓団の女性であっても、出征兵士の妻が守られる事例が浮かびあがった。本事例より、ジェンダーがその他装置より、強い相関をもつと推測される。また諸装置間の相関関係は、兵士を頂点とするホモソーシャルなイデオロギー装置が核にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は、戦後日本の満洲移民の言説とそれを生産する社会関係について、1年目は「体験」の時期(1945-65年)、2年目は「証言」の時期(1965-90年)、3年目は「記憶」の時期(1990年-)と区切り進めてきた。平成23年度は、国会図書館等での文献調査により、戦後から1990年代までの拓友会発行の『開拓団誌』のうち主なものを収集し、一部分析した。その過程で『開拓団誌』における、戦前戦後の連続性を、満洲開拓団と戦後開拓・引揚更生に共通する「規律=訓練」に見出せた。また『開拓団誌』とこれまでの聞き取り調査を合わせることで、開拓団における戦時性暴力の問題が浮かび上がった。平成23年度は調査面だけでなく、理論面で大きな進展があった。また郡上市でのアウトリーチ活動も大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は、昨年度より続けてきた文献調査の蓄積によって、『開拓団誌』等の満洲移民に関する戦後言説について、「規律=訓練」と「兵士間のホモソーシャルな絆におけるジェンダーとナショナリズムの分節=接合」という2つの概念枠組を導き出せた。平成24年度は1990年以降の『開拓団誌』の収集を進めるとともに、上記2つの分析概念の満洲移民言説への適用により、前2年度より多くの成果(論文等)を挙げていく。問題は1990年代以降、『開拓団誌』が変質し出版点数も増加することである。『開拓団誌』の変質とは、主な執筆者が敗戦当時未成年の世代となること、また個人体験談の寄せ集めに近くなることである。そこで満洲移民に関する戦後言説として相応しい、『開拓団誌』を選択して収集する対策を講じる。その選択の基準となるのは、先に挙げた2つの分析概念となる。これら分析概念を精緻化するために、文献調査等は遅くとも7月に終わらせ、言説分析に集中していく。そして1945年以降の満洲移民言説の変容を通して戦後日本社会論を刷新することを、到達点とする。
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