研究概要 |
地域伝統芸能をめぐる史資料の収集とインタビューに基づく歴史社会学的分析を中心とする。筆者単独での,史資料の収集・分析と芸能集団へのインタビュー調査を通じて,戦後,とりわけ各地の民謡ブームが起こる昭和30年代以降を対象として,民謡や芸能を取り巻く社会的基盤と,それらと結びついた様々な文化的エージェントが地域社会において織りなす関係性を中心とした歴史社会学的分析を行った。 中心的に取り組んだ研究対象としては、滋賀県長浜市の長浜曳山祭がフィールドとなった。特に(財)長浜曳山文化協会の全面的な協力の下、戦前から現在に至るまでの長浜曳山祭に関する最も重要な資料である「総当番記録」を閲覧して、戦前から現在に至るまでの長浜曳由祭をめぐる諸エージェントの関係性(祭りを担う山組・長浜曳山祭保存会(現在は長浜曳山文化協会)・長浜町(長浜市)・日本放送協会など)が取り結ぶ関係性の中で、祭りがどのように継承され変容したかを歴史社会学的に明らかにした。さらに、研究代表者自身が長浜曳山祭の中心的な担い手である若衆となって参与観察調査を行い、都市祭礼である長浜曳山祭の運営組織の現状と課題を、1990年代以降の地方都市の社会構造の変容と結びつけて明らかにすることができた。「文化の客体化」論的な研究の多くは,地域伝統芸能による「客体化」のバリエーションの多様性を看過する傾向にある。長浜曳山祭は12の山組が競合して行われる祭であり、同一地域において芸能とその担い手が創り出す複数の客体化がせめぎあい、また時に併存していくという状況はこうした従来の研究視角では十分に捉えられることがなかったものであり、そうした競合関係が地域アイデンティティをどのように再編していくかを明らかにすることができた。 またNHKアーカーブストライアル研究への採択を契機に、昭和40年代~50年代のNHKの農村ドキュメンタリーを集中的に閲覧する機会に恵まれ、そこでの祭の表象分析を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
地域伝統芸能をめぐる歴史社会学的分析をさらに進展させると共に、今年度はメディア史的分析・インタビュー・参与観察により重点を置きたい。平成24年度は長浜曳山祭に加え、山口県上関町祝島における祝島神舞について、申請者単独での資料の収集・分析とインタビュー調査、参与観察を通じて分析を進めていく予定である。 祝島については3.11以降、30年にわたり原発反対運動を続けてきた島ということもあり、また近年,著名な映画監督の鎌仲ひとみ氏や本橋成一氏らのグループによるドキュメンタリー映画の撮影・上映による知名度もあって,環境問題に関心を持つ観光客,また有機農業や産直などによる地域活性化に関心ある人々が数多く出入りするようになり,外客との関係性が神舞を含めた「伝統」文化において大きな焦点となっている。平成24年に開催される次回の神舞の際,そうしたメディアや外客をも巻き込んだ状況の中で,神舞をめぐる関係性がどのように変容していくかをめぐって,神舞の準備の段階からのインタビューと参与観察を行う。
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