研究概要 |
今年度はこれまで収集したインタビューデータの分析を進めた。異文化コミュニケーション学会(Society for Intercultural Education, Training, and Research, Japan)の年次大会(平成24年11月11日)において、途中経過を『外国人ケアワーカーの異文化適応とコミュニケーション』と題して研究発表を行った。 <研究の背景と目的>外国人ケアワーカーの受け入れに関しては、「言語と文化の障壁」や「コミュニケーションが課題」との声が聞かれるなか、実際にどのような“問題”があったのか、質的にアプローチする研究はまだ見当たらない。そこで、本研究では、外国人ケアワーカーが実際に言語・文化・コミュニケーションの問題を経験し、それがどのような意味を持っているのか、異文化コミュニケーションの視点から質的分析を試みた。 <研究方法>2009年に第一陣として来日したフィリピン人看護師候補者(4名)との英語による1対1の半構造化インタビューの中から、言語・文化・コミュニケーションに関する経験を10エピソード抜き出し、データとして用いた。分析にはGiorgiの描写現象学的手法を用いた。 <結果と考察>実際にどのような経験がコミュニケーション上の「問題」としてとらえられるのか、その構造が明らかになった。具体的には、コミュニケーション上何か大きな失敗をしてしまったからそれを「問題」と考えるのではなく、言語というコミュニケーションツールを失ったことによる自分の職業的な無能感とアイデンティティの喪失・変化が、日常的なコミュニケーションを「問題」だと感じさせていることがわかった。一時的ではあるが、自己の価値が下がってしまっているという認識、特に看護師としての価値が下がってしまっていると認識している状態が彼女たちの経験に大きく影響していることが浮き彫りとなった。
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