外国人ケアワーカーは日本でどのように「言語と文化の障壁」を乗り越えてケアの現場で働いているのだろうか。経済連携協定(EPA)で来日した外国人ケアワーカーたちから聞き取り調査を行い、実際にどのようなコミュニケーションにおける“問題”があったのか、そしてそれらがどのような意味を持って彼女達に経験されたのか、異文化コミュニ ケーションの視点からの理解を試みた。Giorgiの記述的現象学的手法を用いて聞き取りデータを分析をしたところ、実際に経験されたコミュニケーションの問題は、表面的には様々なバリエーションを持って経験されているものの、本質的なレベルにおいては彼女達のアイデンティティの問題と深く関わって経験されているという側面があることがわかった。現在と過去の自分を比較し、そのギャップを意識する時にそのコミュニケーションを困難と感じているほか、他者とのコミュニケーションを通して、本来の自分・自己イメージを取り戻そうとしてもそれが達成されないときに、コミュニケーションが難しいと感じていることがわかった。このように、異文化間ケアの現場で外国人ケアワーカーが経験しているコミュニケーションには、アイデンティティに関するストラグルという側面があることが浮き彫りとなった。今年度は、日本質的心理学会の年次大会(平成25年8月30日~31日)において、「フィリピン人ケアワーカーの異文化コミュニケーション:現象学的アプローチ」と題して発表した。また、『言語と文明』第12巻(2014年3月発行)に「異文化間ケアの現場におけるコミュニケーション:EPA看護師候補者の事例から」と題する論文を発表した。
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