本研究では、これまで主に「移民」に焦点を当てて研究されてきたオーストラリア多文化主義を「先住民族」という観点から再考する。具体的には、先住民族の存在や主張をオーストラリア多文化主義の理論・実践のなかでどのように位置づけることができるのかを社会学的実証調査および他国の事例との比較分析によって明らかにし、先住民族の存在や主張にじゅうぶんに配慮した多文化主義のあり方を理論的に検討していく。それによりオーストラリア多文化主義研究の理論的・実証的水準を向上させるとともに、日本における「多文化共生」のあり方を考察する際の示唆を得ることもめざす。 平成22年度には以下のような研究を実施した。まず4月から7月にかけて、上記研究テーマに関する先行業績の検討と分析枠組みの策定を行った。そして8月4日から23日にかけてオーストラリアにて現地調査を実施した。まずシドニーで現地在住研究者等との意見交換を行い、その後バサーストで先住民族が多数在籍する公立高校2か所を訪問しインタビュー調査を行った。キャンベラの国立図書館で資料収集を行い、ダーウィンにおいては州立図書館や博物館等で資料収集を行ったほか、現地における先住民族芸術の状況を視察した。 その後9月から2月にかけて調査によって得られた資料やデータを分析し、一部を論文や著作として執筆した。3月3日から22日にかけて2回目のオーストラリア現地調査を行った。シドニーで資料収集および現地在住研究者等との意見交換を行い、アリススプリングスでは現地視察と公立図書館等での資料収集を行った。キャンベラでは現地研究者との意見交換および国立図書館・国立博物館等での資料収集を行った。以上のような調査結果をもとに、下記のような研究成果を発表・刊行することができた。
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