平成24年度は、これまでの研究成果を再検討し、先住民族の視点に配慮した多文化主義の理論構築を試みた。まず、昨年度までに収集した資料・データの分析を行うとともに、日本とオーストラリアの先住民族問題の比較のために、日本のアイヌ民族や琉球・沖縄の先住民族運動指導者3名への聞き取り調査を実施した。そして8月にはオーストラリアのパースとシドニー、キャンベラ、メルボルンにおいて、移民・先住民族支援の当事者への聞き取りおよび文書資料収集を実施した。こうした調査の結果、従来は移住者と受け入れ社会の関係を主な考察の焦点としてきた多文化主義研究に先住民族問題に関する視点を導入する重要性を再確認し、先住民族・移住者・マジョリティ国民の関係性を分析する理論的枠組みを試論的に導き出すことができた。 こうした成果は、6月のオーストラリア学会全国研究大会個別研究報告にて口頭発表された。さらに2012年7月刊行の多文化主義研究に関する単著『共に生きる』や、2013年2月に刊行された先住民族研究に関する編著書『市民の外交』などにも反映された。詳細は、様式C-7-1の業績一覧を参照されたい。ただしこうした本研究の成果はあくまでも試論的な域に留まっており、本格的な実証研究や理論的精緻化は今後の課題として残されている。そこで本研究の成果をさらに発展させるために、2014年度からは新たに基盤研究Cの研究を開始することになった。
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