研究概要 |
本研究の目的は,社会的な格差のメカニズムおよびその解決策としての再分配のメカニズムを,数理社会学方法を用いて解明することにある,数理社会学的方法とは,社会的ジレンマ論を含むゲーム理論,ネットワーク分析,および社会シミュレーションなどである.これらの方法はそれぞれの分野で厚い蓄積があるが,これらを総合的に用いた社会的格差研究はあまりなされていない.そこで本研究では,これらの方法を組み合わせ,格差のメカニズムを解明する.特に,格差の要因のひとつであると考えられる貨幣の成立や資本の蓄積,社会関係資本ともよばれる人のネットワークの影響,チキンゲーム的状況などが吟味される. 平成22年度では,まず,再分配のメカニズムについて,7月に現時点での到達点を4年に一度だけ開催されるISA(国際社会学会)の世界会議において発表した.つぎに,格差が生ずる原因として生産と贈与からなる分業ネットワークを想定し,トライアド(3者関係)の数理モデルを構築した.生産関数にかんするある特殊な条件のもとで,どのような分業ネットワーク形態がナッシュ均衡として成立するかを明らかにし,この成果を9月の第50回数理社会学会大会において報告した.さらに上記の分業ネットワークにおける贈与概念を交換概念に置き換え,よりシンプルにした数理モデルを構築し,貨幣流通および格差生成がナッシュ均衡として成立する条件を明らかにした.この成果を3月の第51回数理社会学会大会において報告した.発表は簡単のためトライアドでおこなっているが,4人以上の一般的な場合に拡張が簡単にできる.
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