研究概要 |
本研究の目的は,社会的な格差のメカニズムおよびその解決策としての再分配のメカニズムを,数理社会学方法を用いて解明することにある.数理社会学的方法とは,社会的ジレンマ論を含むゲーム理論,ネットワーク分析,および社会シミュレーションなどである.これらの方法はそれぞれの分野で厚い蓄積があるが,これらを総合的に用いた社会的格差研究はあまりなされていない.そこで本研究では,これらの方法を組み合わせ,格差のメカニズムを解明する.特に,格差の要因のひとつであると考えられる貨幣の成立や資本の蓄積,社会関係資本ともよばれる人のネットワークの影響,チキンゲーム的状況などが吟味される. 平成23年度では,まず9月の第52回数理社会学会大会において,格差のメカニズムに関連して,3人チキンゲームにおける2タイプの均衡(1人勝ちと1人負け)の性質の違いについて論じた.1人勝ちが常にパレート効率である一方,1人負けはパレート非効率になることがある.ここから1人負けに近い社会的排除が誰にとっても不毛である可能性が推察される.また,同月のスイスとフランスでの国際会議では,「敵」を作ることによって共同体が団結するという人間の集合的性質は「敵」とされた者を排除し,社会的格差を生み出しうるが,この社会的メカニズムの基礎についての研究報告を行った.さらに,3月の第53回数理社会学会大会においては,再分配のための準備として,社会における格差と豊かさを統合するような指標を「複合マクシミン基準」として提案した.これは,低所得者を配慮するような重みづけを2者関係における平等志向という自然な仮定から公理論的に導出するものである.平等志向の強さに応じて,低所得者への配慮が大きくなるという道理的な評価関数を導出することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,口頭報告だけでなく,これまでの成果を論文にまとめるフェイズになる.格差の評価についての論文は,今年度または来年度発行予定の専門書に採録される予定である.しかし,ネットワークや貨幣が生む格差についてのモデル化が不十分であるのと,これに関連して,コミュニティや社会的排除に関連するような次の研究課題が浮かび上がってきており,繋げて研究していきたい.
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