本年度では第1に、行為者が異質である状況において、格差とコミュニティが同時に形成される原理的なモデルを構築し、提案した。具体的には、円環状に行為者の「個性」を分布させ、個性の近い者同士がパートナーシップを組んで一緒に仕事をすると互いに有利になる等の仮定のもとで、どのようなパートナーシップが形成されるかを、ナッシュ均衡概念を用いて分析した。分析の結果、12人ゲームの場合に、つぎのようないくつかのナッシュ均衡が明らかになった。以下ではコミュニティとはパートナーシップの繋がりのことである。 (1)円環状に全ての行為者がパートナーシップをもつケース:格差は生じない (2)2つの行為者人数が等しいコミュニティが形成されるケース:格差が生じる (3)2つの行為者人数が異なるコミュニティが形成されるケース:格差が生じる また、格差だけでなく社会的効率性の面からも分析したところ、(1)<(2)<(3)の順に社会的効率はよくなった。社会的効率と格差の間にトレードオフがみられたが、これは複数のパートナーシップをもつ行為者がいわば共有財産となっているからである。なお、以上の格差とコミュニティの同時形成モデルは、ネットワークとしての社会のシンプルな形成モデルとして位置づけられる。 本年度では第2に、社会的価値志向(社会的動機)から出発して格差と社会的効率の両面を総合的に評価する指標の提案(これはアマルティア・センの不平等研究に関連する)など、これまでの研究成果をまとめるべく、本の出版に向けて原稿を執筆した。現在は、草稿の修正段階であり、助成期間内での出版は叶わなかったが、近く出版する予定である。
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