本年度は、新たな「組織モデル」と「人間モデル」のプロトタイプを提示することを目的として研究を進めた。 そのために、企業博物館というそれ自体が組織であるとともに、企業組織の広報部門の一環でもある、きわめて特殊な組織についての研究を中心に進めた。とりわけ、原子力展示館のフィールドワークと組織の空間理論の接合を試みた。それにより、新たな組織モデルである「洗脳装置としての組織」という組織モデルならびに「情報弱者としての人間」という人間モデルを提示した。 企業博物館、もしくは博物館という時空間は、我々を異質な時空間に誘う。そこでの情報に対しては、多様な解釈は許されず、我々は物理的に定められた「順路=ストーリー」を進む。理解可能性ないし感知可能性という点においては、高度なアカウンタビリティを果たしているといえるが、ある種の暴力性を有しているのも事実である。博物館では恣意的に作られた「順路=ストーリー」を進むことで、来場者の洗脳を行われるのである。その成果は『情報コミュニケーション学研究』第12号にて、「組織の使命と企業博物館-原子力発電展示が生み出す情報弱者」にまとめられている。 また、組織においては「情報弱者としての人間」はいつでも生じる可能性がある。それは、その組織におけるコミュニケーションの総量によるものではなく、コミュニケーションによってもたらされる情報を読み解く文法や文脈を理解できないことに起因する。そこで、組織内での文法を組織目的、文脈を組織文化としてとらえ、何を共有できていないがために情報弱者が生み出されているのかを理論的に究明した。その成果は『現代コミュニケーション論』のなかで「組織とコミュニケーション-我々は何を共有しているのか」に表されている。
|