本年度は、組織における空間、アーティファクト、風景など物理的なものを組織論に位置づける作業に従った。組織美学の最新の動向をサーベイしながら、「舞台としての組織/情報弱者としての人間」モデルの精緻化を図った。またその成果を、単著の中で公開した[『組織の理論社会学-コミュニケーション・社会・人間』文眞堂]。 組織をコミュニケーションの総体としてとらえた場合、そこには情報格差が生まれる可能性があり、それが権力の再生産にもつながる。また、その情報格差は恣意的に形成される可能性がある。例えば、空間の使用法や、アーティファクトの操作などである。 本研究では、博物館という装置をパイロットモデルとして、その時空間の中で、人間は「順路」「ストーリー」「説明書き」などを介して、洗脳されるという見地を重視した。 そして、博物館だけに留まらず、組織(警察・刑務所、病院、学校、企業など)は常に洗脳装置として機能する可能性があることを指摘した。例えば、監視カメラに撮影される人間は全て潜在的不審者として扱われ、「治安悪化」という言説が流布されることにより、人間は不安をかき立てられる。ほかにもメタボリック・シンドロームをはじめとした生活習慣病は、病気の「予備軍」として扱われ、「病気の早期発見」「未病」など、病気概念の拡大が行われる。その結果、人間は自らの身体に不安を感じ、自己責任の言説のもとで、徹底的な自己管理を行うようになる。そのプロセスにおいて、物理的な環境によって生み出されている「情報格差」は決定的なファクターとして機能する。 本年度の成果は、上記のように、「舞台としての組織/情報弱者としての人間」モデルの精緻化と、組織の「洗脳装置」としての側面の発見である。
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