研究課題/領域番号 |
22730411
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
元森 絵里子 明治学院大学, 社会学部, 准教授 (60549137)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 社会学 / 教育社会学 / 歴史社会学 / 子ども論 / 教育システム / 社会化 / 少女売春 / 責任 |
研究概要 |
本研究は、「子ども」とその教育が社会の存立にかかわるという、日常知のみならず社会学も前提としてきた感覚の成立と展開(歴史性と社会性)を社会学的に分析するものである。3年目に当たる本年度は、年少者を社会の存立にかかわり教育すべき「子ども」とは異なる形で見る視線が残っていた戦前期の具体的記述に力を入れると同時に、欧米の子ども社会学研究を渉猟し、現代と比較しながら議論するための枠組み構築を目指した。進捗状況は以下である。 1)戦前期の子どもと教育をめぐる言説の収集・整理: 教育と他の制度領域との関係性に焦点をあて、戦前期に「子ども=教育」という前提が広がっていく中で、それが年少者を別様にまなざす見方とどう調停・併存されてきたかを法制度史料等から分析した。具体的には、前年度より分析していた貧困層の就学問題や少年法制度成立論とに、新しく着手した公娼制度の成立と存娼論・廃娼論の攻防を検討し、それぞれ論文として公表した。これと、すでに分析済みの工場法、喫煙・飲酒に関する議論とを比較し、年少者へのまなざしの併存状況のバリエーションを理論化する作業に着手した。 2)近年の子どもと教育をめぐる言説収集および事例研究: 1の戦前期の分析と比較しつつ現代を検討することを念頭におき、教育と職業世界のトランジション研究や生涯学習論、未成年の飲酒・喫煙問題、少女売春とその規制等の資料を収集した。 3)理論的枠組みに関する検討: システム間の関係や言説の分析、身体の構築性に関する先行研究を検討し、研究会やピアレビューで知見を深めた。また、英米の「子ども社会学」のリサーチを進め、子ども観(言説)と身体、制度(モノ)との関係を見る科学史や構築主義の議論が、子ども研究の分野でどう取り入れられているかを検討した。最終年度に向け、これらをもとに、1の歴史的分析と2の現代の分析を接合する理論枠組みの構築に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主たる目的である現代編の進捗が遅れているものの、そのための準備作業として、申請時の予定以上に戦前期の子ども観の多角的な分析を深めており、公表もできている。また、前年度にまとめた分について、学会等を通して広くピアレビューの機会を得ることにも勤めた。さらに、子ども社会学研究者の研究会などの組織化にも着手し、欧米の研究状況のフォローアップを体系的に行い、社会学と子ども研究双方に、理論的なフィードバックを行う基盤づくりができた。 最終年度に理論編と実証編を往還しながら、研究をまとめていく予定である。そのための準備がかなりの程度整ったという点で、4年間の研究期間の3年目としては、順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度報告書にも記載した通り、申請時より研究の力点に変更がある。戦前期の分析に力を入れ、複数の法制度の制定・改定過程の議論の分析から、保護し社会化する「児童」「子ども」という年少者像が広がる(「子どもの誕生」)と呼ばれていた時代が、多様な年少者像の併存や衝突・調停として描きなおす作業に力を入れる。選択した法制度領域は、就職、労働、飲酒、性など、21世紀転換期ごろから再度問題化した(「子どもの揺らぎ」が語られた)領域である。戦前を手厚く見た後に、それと比較した形で現代を見ることで、当初の目的であった現代の子ども像の検討がより詳細にできるようになると考えている。 最終年度にあたる次年度は、積み重ねてきた実証分析から、戦前の子ども像のバリエーションを描くと同時に、それを現代の議論と比較する。また、並行して検討してきた理論的な枠組みでそれらを描きだし、当初の目的である「子どもの誕生と揺らぎ」と見られた事態の捉えなおし作業を行いたい。
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