研究課題/領域番号 |
22730427
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
齊藤 知範 科学警察研究所, 犯罪行動科学部, 研究員 (10392268)
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キーワード | 社会学 / 若年女性 / 犯罪不安 / 質的研究 / 教育学 / 防犯 / 被害リスク / 安全・安心 |
研究概要 |
本研究は3カ年の計画であり、本年度は2年目にあたる。本年度は主に以下について研究を進めた。 第1に、初年度に引き続き、犯罪不安、質的研究方法、ジェンダー研究、都市研究、臨床心理学などについて、関連する資料や先行研究を収集した。さらに、犯罪被害やつきまといや声かけなどのヒヤリハット事案などに関して、新たに文献収集の範囲を広げ、本研究における質的分析などに反映させるための検討を進めた。このほか、若年者の犯罪被害を測るための量的調査に関する研究動向を整理する作業をおこなった(『犯罪社会学研究』掲載論文)。 第2に、初年度である前年度に実施していた、安全・安心に関する質的調査のデータ処理作業を進めた上で、分析を行い、2011年人文地理学会大会において報告した。分析結果から、犯罪への遭遇機会に関する知覚や不安の予期が行動の制約をもたらす可能性が示唆された。 第3に、安全・安心に関する質的調査を、初年度に引き続き実施し、初年度を上回る人数のデータを収集することができた。本研究課題では、大都市圏およびその郊外地域に居住する若年女性を対象とし、地区類型やライフスタイルに応じた被害不安の低減など、若年者の生活の質の向上に資する知見を得ることをめざしているが、本年度までの調査の実施により、社会的属性や居住地区、ライフスタイルなどに関して、サンプルの多様性を確保することが可能となった。 第4に、質的研究以外の研究実施事項として、若年者の被害防止のための理論的な説明図式や概念に関する基礎的な検討をおこなうとともに、実務や応用研究との接続可能性などについて議論した(日本犯罪社会学会第38回大会および『ヒューマンインタフェース学会誌』掲載論文)。このほか、犯罪不安に関する量的調査の再分析をおこない、日本での比較的高い犯罪不安について考察した(The 16th World Congress of the International Society for Criminology)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り、犯罪被害やつきまといや声かけなどのヒヤリハット事案などに関しても文献・資料収集の幅を着実に広げ、量的調査のデザインの改良のための検討などを進めた。さらに、依頼を受け、『犯罪社会学研究』に、若年者の被害を測るための量的調査に関する研究動向についてレビューする論文を執筆した。 また、当初の計画では、初年度である前年度に実施した、安全・安心に関する質的調査に関してデータ処理の作業を進め、分析に着手することとしていた。実際は、この当初の計画よりも踏み込んで、2011年人文地理学会大会において質的調査の分析結果について報告を行い、犯罪への遭遇機会に関する知覚や不安の予期が行動の制約をもたらす可能性が示唆されるなど、研究の目的に照らして意義のある知見が得られた。 さらに、安全・安心に関する質的調査については、本年度も計画に沿って引き続き実施し、社会的属性や居住地区、ライフスタイルなどについて多様性に富む人々を調査の対象とすることができ、新しいデータを入手することができた。研究の目的に照らして、地区類型や女性のライフスタイルに応じた被害不安の低減に資する知見を明らかにしていく上で、良質なデータを着実に収集してきたといえる。 このほか、日本犯罪社会学会第38回大会および『ヒューマンインタフェース学会誌』では、若年者の被害防止のための理論的な説明図式について、基礎的な検討をおこなったほか、The 16th World Congress of the International Society for Criminologyにおいては犯罪不安に関する量的調査の再分析をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、資料の収集ならびに検討を続行するとともに、質的調査の分析などを通じて被害不安の低減に資する知見を明らかにすることをめざして、研究を進める。 資料の収集ならびに検討としては、犯罪不安、質的研究方法、ジェンダー研究、臨床心理学に加え、本年度同様犯罪被害やつきまといや声かけなどのヒヤリハット事案などに関して、先行研究・資料の収集を進め、これまでに収集したものとあわせてさらに検討を進める。 また、被害不安の低減に資する知見を明らかにするために、これまでに実施した安全・安心に関する質的調査などに関して、学会発表や論文化に向けた分析の作業を進める。初年度実施分はデータ処理と分析に着手し、人文地理学会において報告している。引き続き、本年度実施分についてもデータ処理を進め、これまでに実施した安全・安心に関する質的調査について、さらに分析を深めることが課題である。これらを通じて、地区類型やライフスタイルに応じた被害不安の低減など、若年者の生活の質の向上に資する、新しい知見を明らかにすることをめざしたい。
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