日本では、出生率が低下し、生まれる子どもの数が減っていることが社会問題とみなされるようになって久しいが、本研究では、そうした状況のもと、その子どもがどのような環境のもとで生まれているのかに着目し、そこに存在する課題を明らかにすることを目的としている。意図しない出生は、母親の健康や子どもの養育過程における社会経済的環境に対し不利に働きやすいことが先行研究で明らかになっている。本年度は日本における出生意図別の出生発生の実態を明らかにし、その発生のパターンが米国などで問題となっているような経済格差の拡大といった問題に結びついているのかを検証するため、先行研究の整理とデータの精査、分析枠組みの検討を行った。米国と日本との発生状況の比較においては、出生意図に関する調査項目に重要な違いがあるため(日本では妊娠前に「とくに考えていなかった」という意図した出生、意図しない出生のいずれにも分類可能な回答割合が高い)、単純な比較を避け、この回答が意図的/非意図的のいずれの回答に近いかなどの検討を行った。日本における「とくに考えていなかった」との回答は、教育水準による違いという観点からは、意図した出生との類似性が強いことがわかった。なお、このような出生意図の回答パターンの違いは、文化的な要因による可能性もあるので、欧米と日本との比較だけでなく、東アジア諸国など、文化的に近い地域における出生意図の回答パターンも情報収集し、地域比較に関する説明を補強する必要性が明らかになった。
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