本研究の目的は、日本の少子化過程を解明するために、家族形成や出生力に関して意識と行動の両面から接近し、とくに両者の不一致の状況を明らかにすることであった。本研究では、出生意欲と現実の出生行動のギャップに注目したが、とくに意図しない出生発生のメカニズムに迫った。 前年度までに、日本と米国における家族形成パターンの違いや意図しない出生発生の量的な違いを明らかにした。米国に比べ日本は意図せざる出生のレベルが低く、社会経済的な違いも小さいという特徴のほか、婚外出生が少ないことを確認した。 米国と日本との発生状況の比較においては、出生意図に関する調査項目に重要な違いがあるため、単純な比較を避け、回答パターンの類似性の検討を行った。日本における「とくに考えていなかった」との回答は、関連する共変量のパターンから、意図した出生との類似性が強いことがわかった。また「とくに考えていなかった」との回答は、置かれている環境や本人の特性によって異なる意味を持つ可能性に着目し、ここでは3つのシナリオを検証することにした。すなわち、(1)出産を待ち望む気持ちと高い機会費用による損失を避けたいとする葛藤の末の思考停止、(2)生死に関わることに意図を持ち込まない東洋文化的運命観、(3)行動の帰結に対する無関心や低い自己効力感、である。(3)については米国の意図しない出生の背景にあるとされる説明である。高学歴層における意図しない出生が圧倒的に少ない米国に比べ、日本では意図しない出生または出生意図不明の学歴差が少ない。日本においては機会費用の高さがこうしたパターンを生み出している可能性を指摘した。こうした結果は日本で両立支援等が進み機会費用が下がれば、高学歴層における意図しない出生や意図不明の割合が低下するのでは無いかとの見通しを示唆するものである。
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