本研究の目的は、多胎育児者と社会との相互作用に注目することで、多胎育児の社会的脆弱性を明らかにし、社会的な支援の必要性が高いことを示すことである。 今年度の研究実績は、以下3点。(1)多胎育児サークルでの参与観察を実施し、多胎育児の特徴について定性的な把握をおこなった。結果、多胎育児者の主観的な負担感は、単胎育児者との比較から生じることに気づいた。そこで改めてインタビューデータを分析したところ、一対一の母子関係に代表されるマジョリティの育児イメージが、多胎育児者にも内面化されていることが示唆された。成果は日本社会福祉学会大会で口頭報告している。 (2)母親から構成される多胎育児当事者グループとともに、なかなかうまく伝えられないと当事者が感じている「思い」を表現するための作品づくりに取り組み始めた。これまでのミーティングでは、当事者が「平等」概念を大切に扱っている一方で、周囲からの声かけは、似ている/似ていない、あるいはどちらが兄か、といった多胎児同士の比較、年子よりふたこのほうが子育ては楽だ、といったなぐさめの形をとる他者との比較等が多いこと、単胎育児者には尋ねないであろう無遠慮な質問をされる多胎育児者が多くいること。このため多胎育児者は疲労感を覚えること、しかし日々の過酷さから、異議申し立てには至らないことなどが明らかになっている。 また多胎育児においては、父親の協力がきわめて重要である。そこで(3)「多胎児の父親になること」についてのデータ収集をも開始した。NPOが実施する「ふたこの父親支援プログラム」で参与観察をおこない、参加者からの聞き取り調査を実施した。父親たちは妻の疲労ぶりを放置できず、育児に参加せざるを得ないと語っている。このことから、母親だけでなく父親に対しても社会的支援の必要性が高いと考えられる。
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