本研究の目的とする、成人期障害者の暮らしの場の移行に関する親の意識という点については、これまでのところで日本とデンマークで聞き取り調査を実施した。日本では、成人期障害者の親16人について、既にインタビューを終了しており、うち9人が既に生活の場の移行を経験した者、7人が親と同居状態にある者である。7人のインタビューを通して、生活の移行後と親役割の変容との関連性について考察を行なう予定である。具体的には、生活の場の移行という物理的条件の変化がどのような契機によって生じるのか、それに影響を与える社会的環境は何かということを明らかにする。更には、移行後に、親自身の生活や子どもとの関係を変化させることは、自らの親役割の変容にどのように影響を与えるのかを考察する予定である。 また、日本とはことなる障害者福祉政策を持つデンマークをフィールドに現在、障害者の親の聞き取り調査を進めているところである。現在のところ、5人からの聞き取りを完了しており、今後、更に5人程度の親からの聞き取りと障害者の親の会の代表者等へのインタビュー調査を予定している。現在までに聞き取りを完了した対象者の語りからは、子どもの障害の受けとめ、その後の親役割の内容、親子の心理的距離などについて日本とはかなり異なる状況がうかがえる。それらに影響を与える社会環境や障害者関連施策の状況との関連において分析を進める予定である。またこのようなデンマークとの比較は、日本における今後の障害者の家族を考える上で多様な示唆を含むものと考える。母子一体化と捉えられる日本の障害者の家族の状況からどのように脱却していくのか、その方途について示唆を与えるものであるとも考えられるので、そのあたりも含め、今後考察を深めていきたい。
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