本年度は、平成22年度に得た、裁判所(地方裁判所および高等裁判所)が公開している刑事事件として扱われた児童虐待の裁判例、公刊の判例集に掲載された判例(データ)58件の判例について、虐待者・被虐待児・家族の経済的・社会的特徴をコード・数値化し計量分析を施したところ、特に死亡など重大な深刻な児童虐待事案の背景には次の5点の共起関係が示された。 まず、1.児童の年齢と死亡には負の共起関係がある。これは、児童の年齢が低いほど死亡に至る可能性が高まることを指す。次に、2.被虐待児童に育児上の困難の有無(例えば、身体的・情緒的発達に遅滞等)と死亡の共起関係がある。被虐待児に育児上の困難があるほど、死亡に至る可能性が高まる。3.虐待者の年齢と死亡に負の共起関係がある。これは虐待者の年齢が若年ほど死亡に至る可能性が高まることを示す。4.虐待発生時、虐待者の仕事の有無が死亡と負の共起関係がある。虐待者が失業状態の場合に死亡に至る可能性が高まる。最後に、5.虐待者と被虐待児の間の血縁関係の有無(例えば、片親の恋人や再婚相手との同居)が死亡と負の共起関係がある。これは、血縁関係にない者が同居していると死亡の可能性が高くなることを示す。以上5点を時系列に整理すると:虐待者が被虐待児と接触した時点での両者の年齢と血縁関係の有無⇒虐待者が被虐待児と接触した時点での被虐待児に育児上の困難の有無と虐待者の就業状態有無となる。以上5点をアセスメント時の重要項目として重いウェイトを掛けたうえで虐待の危険度を測定し、早期介入を行えるようにする必要がある。
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