本研究は、精神障害者が福祉的就労において主体性を獲得した過程とその要因を仮説的に明確化することを研究の目的とした。今年度は研究期間の最終年度のため、目的の達成に向け、研究実施計画に基づき以下のような日程で作業を行った。 平成24年4月~6月に前年度から調査日時の調整を行っていた調査対象者(男性1名)にインタビューを行い(5月18日実施)逐語記録を作成した。7月~8月にかけて論文執筆に係る、資料・文献の収集を行った。7月~平成25年1月に概念間の関係を検討、カテゴリーを生成し、最終的に採用したコアカテゴリーは2、カテゴリーは22、概念は55となった。分析作業中は適宜、妥当性の確保等、結果に関して質を担保するため分析スーパービジョンを受けた。2月に論文を完成させ、本学紀要に投稿した。また、研究成果報告書の印刷・製本を印刷業者に依頼し、同時に通信・郵送に係る物品等の購入を行った。3月に印刷物を受け取った後、調査に協力して頂いた当事者・関係機関へ送付した。 研究の成果として、精神障害者の福祉的就労における主体性獲得過程をストーリーライン、結果図で示した。また、外的要因として援助者からの【「頼られ」体験】が大きな契機となり、働く上での重要な基盤となる【「等身大の自分」の確立】が精神障害者の主体性獲得に不可欠な要素であることが明らかとなった。これにより、今後の就労支援における援助関係のあり方や援助の方法等に具体的な示唆を与えることができると考えられる。さらに、援助者が「頼る」ことにより、当事者と双方向に支え合う関係性を成立させ、当事者の主体性の獲得に大きな影響を及ぼしていることから、就労支援において援助者が意図的に、当事者を信頼し「頼る」という「技法としての『頼り』」の可能性が示唆された。
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