24年度は研究課題の最終年であり、23年度に実施した東北地方出身の若者を中心的なターゲットとしたweb調査のデータを提示することを中心的な目標に、学会での発表、書籍と報告書の刊行を行った。特に重要な成果である書籍「『東京』に出る若者たち」は、労働経済学者ならびに社会学者との共著として出版され、東北出身者に対するミクロな聞き取り、本研究課題で収集された社会関係に関わる量的データ、そして、就業構造基本調査の個票データまでを扱う、学際的な内容となった。一連の研究からは、東北出身の若者が首都圏に移動することで大きな教育、経済上の利益を得ること、その利益は、地域間移動を可能とする物的、人的資本を持つ者にのみ可能であることを示した。地方出身者は、出身階層の社会経済的地位の影響を、より強いかたちで受けるのである。 本研究課題の反映として、研究代表者が執筆したのは社会関係に関わる章であり、東北出身者の移動先が首都圏に集中しているがゆえに、長距離の地域間移動を行っているにもかかわらず、移動者は一定の社会関係を首都圏に保持していることを明らかにした。一方で、この傾向が強いのはもともと移動傾向の高い大学進学者であり、高卒者では、移動確率が全体に低いがために、首都圏での社会関係の蓄積が小さく、Uターンの遠因となっている可能性が示唆された。 従来、都市社会学者は大都市における社会関係をネットワークとして捉え、研究の対象としてきたが、出身地や移動の経緯によって、都市住民の社会関係が異なる可能性を示した点でも、本研究課題は重要な成果を示したと言える。 「『東京』に出る若者たち」は、地方と都市の地域間格差に関心を持つ研究者だけでなく、一般の人々にも関心を持たれ、研究代表者に限っても、3つの取材を受けた。本研究の社会的な意義も、高く評価されたと考えている。
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