研究概要 |
防衛的悲観主義(過去の似たような状況において良い成績を修めているにも関わらず,これから迎える遂行場面に対して低い期待をもつ認知的方略;以下,DP)と方略的楽観主義(過去の高いパフォーマンスに対する認知と一致した高い期待をもつ認知的方略;以下,SO)は,パフォーマンスを高める認知的方略であることが示されている(外山・市原,2008)。一方で,DP者がなぜ高いパフォーマンスを示すのか,そのメカニズムについては実はこれまで組織的に検討されていない。しかし,1つの可能性として考えられるのが,Norem(2001)も指摘している"熟考"が果たす役割である。 そこで本年度は,大学生を対象にして,DPを測定する認知的方略尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。その際,DPの特徴である熟考を"結果に対する熟考"と"計画に対する熟考"に分けて測定できる尺度を目指す。熟考を両者に分けた尺度を用いることで,DPが高いパフォーマンスにつながるメカニズムを探る一助になると考えられた。 研究の結果,"失敗に対する熟考","成功に対する熟考","計画に対する熟考"ならびに"過去のパフォーマンスの認知"の4つを下位尺度とする認知的方略尺度が作成された。また,認知的方略尺度の信頼性(内的一貫性と時間的安定性)と一部の妥当性(因子的妥当性と規準関連妥当性)が確認された。さらに,認知的方略尺度の下位尺度の組み合わせによって,4つ(DP者,楽観主義者,真の悲観主義者,C者)の異なった認知的方略パターンが確認された。今後は,本尺度のさらなる洗練化を目指すとともに,DP者の熟考がパフォーマンスに及ぼすメカニズムについて詳細に検討していくことが望まれる。
|