日本看護協会が2008年に実施した調査によれば、全国の病院における常勤看護職員の2007年度の離職率は12.6%であり、新卒看護職員でも9.2%であった。したがって、本研究では、看護師の精神的健康を良好な状態で維持するための対策を明らかにすることを目的としている。特に新人看護師に焦点を当て、職務への適応が、看護師同士の人間関係から生じる心理的なストレスに及ぼす効果を検討している。 今年度の前半は、昨年度に看護師を対象に実施した質問紙調査について分析及び考察を進め、国内で2件の学会発表を実施した。1件目の具体的な内容は、看護の現場において、複数の業務が一度に重なる等のような職務の遂行が困難な状況で、その状況におかれた看護師がとる対処によって看護師同士の対人ストレッサー及びバーンアウトの傾向が異なることを示したものであった。2件目の具体的な内容は、対人ストレッサー及びバーンアウトの傾向が日常レベルの簡単な行動における失敗の傾向を高めることを示したものであった。特に、2件目のデータでは、本音を抑制することで記憶に関する失敗の傾向が高まり、バーンアウトの1つの因子とされる脱人格化の傾向が高いほど注意に関する失敗の傾向が高まるということが明らかになった。その他、学術雑誌で2本、紀要で1本の論文を公表した。また、学会発表に関しては国内の発表の他にアメリカの学会でも1件発表した。 今年度の後半は、新しく配属された看護師の職務への適応を促す研修としてグループワークと観察を組み合わせた研修を予備的に実施して、その前後の対人ストレスのデータを質問紙で収集した。この研修と質問紙調査を組み合わせた検討については来年度もデータを積み重ね、分析を進める予定である。また、研修を受ける来年度の新人看護師と比較するため、研修を受けなかった今年度の新人看護師のデータも収集した。
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