2013年度は特に自己形成の側面を探究するため,青年期における自己意識の様相に焦点をあて,自尊感情と青年期発達との関連の検討および自尊感情と恩恵享受的自己感との相互形成関係について検討した。 研究1:自尊感情とアイデンティティ発達との関連を検討するため,大学生327名を対象とした質問紙調査を行った。J-DIDSにおける反芻的探求およびアイデンティティスタイルにおける拡散において自尊感情と有意な負の関係がみられたことから,自尊感情の低い者はアイデンティティ発達における停滞状態にあることが示唆された。ただし自尊感情の高い者には早期完了の者も多く,自尊感情がアイデンティティ発達の指標とはならないことが示された。 研究2:自尊感情と自己意識およびアイデンティティ発達の様相との関連を検討するため,中学1年生~高校3年生1808名を対象とした質問紙調査を行った。自尊感情の高低および自己意識の高低を要因とし,自己意識の内容およびアイデンティティ発達について差を検討したところ,自己意識の内容およびアイデンティティ探求次元においては特に自己意識の高さによる主効果が顕著に示された。また,自分の性格や外見などではなく将来について考えることがアイデンティティの広い探求に対して正の有意な寄与を示していた。現在から未来を展望しつつ自己と向き合うことがアイデンティティ発達につながる自己意識の様式となると考えられた。なお,自尊感情の学年差は有意ではあったが効果量は小さかった。 研究3:自尊感情および恩恵享受的自己感の相互関係性を検討するため,高校2年生61名を対象とした3時点の調査を行った。交差遅延モデルによって検討した。自尊感情から恩恵享受的自己感,および,恩恵享受的自己感から自尊感情へのパスはいずれも有意ではなく,相互形成的関係は認められなかった。媒介項の検討および対象者数の増加が今後の課題とされた。
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