研究概要 |
自動車の衝突防止システムについての集団意思決定の実験を行い、リスク情報の有無とその共有方法が集団決定に及ぼす影響を調べた。実験では「5人でレンタカーを借りて郊外へドライブする。レンタカー代は1万円、オプションで衝突防止システム機能を選べる。いくらまでなら割増料金を払えるか」を話し合った。被験者は大学生104名でランダムに5名のグループに分かれた(1組は4名)。各被験者にはレンタカー情報として排気量や燃費などが書かれた資料が渡される。ここで実験条件として3条件が設定された。事故情報なし条件はレンタカー情報のみ。事故情報の文章のみ条件では、レンタカー情報と共に衝突死亡事故のニュースが示された。事故情報の文章+画像条件では、事故のニュースと事故の画像が示された。まず、①個人として金額を決め(個人決定1)、②5名で話し合い、集団として金額を決定(集団決定)、③再度個人として金額を回答する(個人決定2)。その結果、個人決定1では、事故情報なし条件で最も平均額が低く(3,112円)、他の2条件(文章のみ:3,871円、文章+画像:3,647円)との差は統計的に有意であった。また、情報なし条件では集団決定の平均額は2,250円で、個人決定1の平均額より下がったが、文章のみ条件では集団で平均3,500円、文章+画像条件では集団で平均3,662円と、個人決定1とほぼ変わらなかった。すなわち(1)リスク情報が与えられることで、衝突防止システムのような安全機能への価値評価が高まり、(2)リスク情報が与えられない条件では、集団決定にいわゆるリスキーシフトが生じたが、リスク情報が与えられるとリスキーシフトは起きず、安全機能に対する価値評価は維持された。以上から、リスク低減方策について集団で議論する際に、具体的なリスク情報を共有することで、リスク軽視の判断へ移行するのを抑制できる可能性が示唆される。
|