一般市民が参加する裁判員裁判では、職業裁判官のみの裁判に比べ、量刑にばらつきが見られることが報告されている。本研究では、その原因の一つとして、裁判員が量刑判断をする際、ヒューリスティックを利用している可能性を指摘し、それを実証するとともに、ヒューリスティックが利用されやすい条件を明確化することを目的としている。 量刑判断において用いられる可能性があるヒューリスティクスには、少なくとも3つ(代表性、利用可能性、調整と係留)が考えられるが、平成22年度はこのうち利用可能性ヒューリスティック(検索容易性ヒューリスティックとも言う)に着目した実験を実施した。具体的には、ある人物が過失により殺人を犯してしまうという架空のストーリーを作成し、実験参加者に、罪の重さや与えられるべき懲役の年数などを判断してもらった。この際、判断に先立ち、「もし~がなかったら(でなかったら)、事件は起きなかった」という反実思考を多数、もしくは少数行ってもらうことで、量刑判断の根拠となる事象の検索容易性(利用可能性)を操作し、それが罪の重さや量刑の長短の判断にどのように作用するかを検討した。利用可能性ヒューリスティックが利用されていれば、想起した反実思考の数により、量刑判断に相違が見られるはずである。 結果は、反実思考の数の多寡(検索容易性)だけでは量刑判断に顕著な影響が見られず、むしろ思考内容(事件を起こした人に注目するか、周囲の状況に注目するか)や個人差変数(認知欲求、セルフモニタリングなど)が深く関与することが示唆された。22年度の研究は、量刑判断に利用可能性ヒューリスティックが用いられる条件を探索的に検討することであったため、その目的はある程度、果たすことができたと言える。本実験の結果を精緻に分析し、次年度以降、量刑判断におけるヒューリスティックスの利用とその既定因について、さらに検討していく予定である。.
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