研究課題/領域番号 |
22730485
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
森 津太子 放送大学, 教養学部, 准教授 (30340912)
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キーワード | 社会系心理学 / 社会的認知 / 社会的判断 / ヒューリスティック / 裁判員制度 |
研究概要 |
一般市民が裁判員として参加する裁判は、従来のような職業裁判官のみで行う裁判に比べ、刑のばらつきが大きいことが指摘されている。その原因の一つとして考えられるのが、裁判員がヒューリスティクスを利用している可能性である。明確な量刑基準がない中で、多様な情報をもとに行う量刑判断は、Tversky&Kahneman(1974)がいう"不確定状況"にあたり、判断の際の簡易方略であるヒューリスティクスが用いられやすい状況であると考えられる。そこで本研究では、一般によく知られるヒューリスティクスが量刑判断において利用されている可能性について検証することとした。本年度は、一年目に行った「利用可能性ヒューリスティック」の検討に続き、「係留と調整ヒューリスティック」の検討を行った。これは、判断に先立って、一定の情報(主に数値)が与えられると、その情報が本来、判断とは無関係なものであっても、その情報を判断に利用してしまうというものである。今回行った実験では、あらかじめ提示された数値が、その後の量刑判断に影響するという結果が見られ、量刑判断という極めて重要な判断においても、このヒューリスティックの影響が強力に見られることが示された。すなわち、あらかじめ長い懲役年数を見ていると、その後の実験参加者の量刑判断は厳しいものとなるのに対し、短い懲役年数を見ていると、その後の量刑判断は相対的に緩やかなものとなった。裁判員は、一連の裁判の過程の中で、検事や弁護士のほか、ジャーナリストや知人など、様々な人びとが示す量刑情報に接する機会がある。本研究の結果は、そのような情報がたとえ根拠がないものであっても、あるいは、根拠がないことを裁判員自身が自覚していたとしても、裁判員が判断する量刑の軽重に影響する可能性があることを示唆しており、現行の裁判員制度の進め方について疑問を投げかける結果になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、量刑判断に影響する可能性がある3つのヒューリスティクスについて、3年間で検討することを予定しており、2年が経過した現在、2つのヒューリスティクスについて、実験を行うことができた。その点においては、おおむね計画通りであるが、結果を調整する個人差変数等の要因の分析や、定性データの分析が十分に進んでいない。そのため、学会や学術雑誌での発表も当初の予定どおりに進んでおらず、本年度はこうした遅れを取り戻す必要があると考えている。したがって、達成度は「やや遅れている」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で扱う3つのヒューリスティクスのうち、一年目(一昨年度)は利用可能性ヒューリスティック(検索容易性ヒューリスティックともいう)、二年目(昨年度)は係留と調整ヒューリスティックをとりあげ、これらが量刑判断および有罪性の判断に利用される可能性について実験的な手法を用いて検討にした。そこで本年度は第一に、残る一つのヒューリスティックである代表性ヒューリスティックの利用に関わる実験を実施する。また、本年度は本研究課題の最終年度であることから、これまでの実験で得られたデータの再分析を行い、それぞれのヒューリスティックが利用されやすい条件をより精緻に検討していき、それらを先行研究の知見と照らし合わせる中で、量刑判断や有罪性の判断において、どのような場合に、どのようなヒューリスティックが利用されやすいのかというリサーチ・クエスチョンに対する一定の結論を出したい。
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