研究課題/領域番号 |
22730487
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
林 洋一郎 法政大学, キャリアデザイン学部, 准教授 (70454395)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 公正 / 不公正 / 直感 / フレーミング / デュアル・システム |
研究概要 |
2012年度は、職場の公正や不公正の知覚が従業員の様々な反応に与える影響について、主として3つの実証研究から検討した。 第1に、首都圏の3つの一般病院を対象とした質問紙調査である。この研究結果は、公正知覚と従業員の転職意志やバーンアウトとの関連が制御焦点(促進焦点と予防焦点)によって媒介されるかどうかを検証したものである。分析結果は、促進焦点のみ公正知覚と転職意志およびバーンアウトとの関連を媒介することを示した。この結果は不公正さが従業員のメンタルヘルスを損なう可能性を示唆するものであり、研究目的に合致する研究である。 第2に、失業者を対象とした質問紙調査も行った。本調査は、公正さだけでなく職業訓練の効果が個人に与える影響を幅広く検討した研究であるが、特に公正信念を持つことができることが職務探索という再雇用に向けた適応的行動を促進することが見いだされた。今後も、さらに詳細な分析を行い、計画書で提案した公正や不公正とアウトカムとの関連が感情によって媒介されるかどうかについても検討する予定である。 第3に、公正さが特性フレーミングに与える影響について実験的な手法を用いて検討した。実験の結果から、公正さとフレーミングの2要因が、個人の適格性判断に与える2要因交互作用の有意性は認められなかった。しかしながら、公正さ、フレーミングそして公正志向性(公正に対する注目度の個人差)の3要因交互作用が有意であると証明された。この結果によると、公正志向性の低い人物が、提示されるメッセージがポジティブにフレーミングされた場合に、公正の影響をより強く受けることを示された。一方で、公正志向性の高い人物は、提示されるメッセージがネガティブにフレーミングされた場合に公正の影響をより強く受けることが示された。本研究は、フレーミングという直観的な判断に対しても公正さが強く関与することを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「おおむね順調に進展している」という評価とした。 その理由として、第1に、公正と不公正の非対称性と合理と直感という二重過程についての理論的な理解が進んだからである。神経科学の分野における、公正や不公正の研究によると、公正さと不公正さを情報処理する際の脳の部位が異なるかもしれないことが示唆される。これらの研究は、心理測定尺度の上では、公正と不公正さが一次元ではなく二次元であることを示唆するものといえる。 第2に、実績報告書で述べたように、3種類の実証研究(質問紙によるサーベイおよび実験研究)が実施できた。研究計画書に記載した通り、本研究は経験的な研究を重視している。よって、公正研究に特化した質問紙サーベイや実験研究を実施できたことは、本研究の大きな成果と考えられる。特に、看護師や失業者など、実際に公正や不公正を体験する場所に身を置いている方々から得られたデータは大変に貴重であると考えられる。また、フレーミングと公正の研究は実験的な手法によって実施された。調査だけではなく実験的な主j法によっても研究を実施できたことは、研究の妥当性に寄与するものであると考えられる。 さらに、これらの研究は海外ジャーナルに投稿中であったり、国内外の学会で発表する予定となっている。 以上の点から、現在の達成度は「おおむね順調に進展している」という評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、研究課題の最終年度でもあるので、研究成果を学会で発表したり、学会誌への投稿準備を進めることが主な業務となる。 第1に、公正とフレーミングの研究は、海外のジャーナルに既に投稿している。現在のところ審査中であり、査読者からの回答があり次第に改稿を進める予定である。さらに別の実験研究を予定している。これはリーダーシップやインフルエンス・タクティクスの観点から研究を進めたいと考えている。 第2に、看護師を対象とした研究は国内の学会で発表される予定になっており、さらに別のシナリオ研究を実施して、研究知見の外的妥当性を確かめたいと考えている。そのうえで海外ジャーナルを念頭に論文の作成を進める。 第3に、失業差を対象とした研究は、国際学会で発表される予定になっている。こちらは、主として国内ジャーナルを念頭に論文の作成を進める予定である。 第4に、公正と不公正の非対称性や公正と不公正に情報処理過程についての理論的研究を進めていきたい。これまでの研究から、公正と不公正の情報処理のシステムが神経科学の観点からは異なることが示唆される。すでに試験的に調査を研究を行っているが、このことは、BIS/BASや制御焦点(促進焦点/予防焦点)のように個人の態度や情動を二分法の観点から捉える考え方とのつながりを示唆するものである。 3種類の実証研究の知見や文献展望の知見を統合して、今後の研究方向や次の研究費申請につなげていきたいと考えている。
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