本年度は、本研究課題の最終年度であり、これまで収集したデータの分析に多くの時間を割り当てた。 第1に、離職者を対象とした研究においては、再雇用研修において社会的スキル再雇用への探索を強める効果が見出された。さらに、両者の関連性が研修時の公正知覚によって調整される傾向が示された。 第2に、公正条件、公正志向性(公正さに注目する個人差)、フレーミングという3要因交互作用を証明した研究結果を、論文投稿に向けて、原稿を仕上げた。完成された原稿は、The journal of social psychology という雑誌に投稿した。最終的に本論文は、受理され、既に本誌に掲載されている。 第3に、今後の研究課題に発展させるために、組織における公正さの直感的・無意識的判断と合理的・意識的判断の違いについて検討した。公正判断がプロスペクト理論が予測する価値関数に近似できないかどうかを考察した。利益を得ている領域では上に凸となり、損失の領域では下に凸となるような関数である。つまり人間は、利得よりも損失により敏感であり、損失回避の傾向があると仮定されている。この考え方を公正判断に当てはめると、公正判断よりも不公正判断により敏感に反応するということである。筆者は、これを検証するために探索的な実験を行った。その結果、「とても不公正である」という条件の公正判断は、「不公正である」という条件よりも公正知覚の値が有意に小さかった。しかし、「とても公正である」という条件と「公正である」という条件の間に、有意な違いは見いだされなかった。 この結果は、リッカート尺度が極端な値を測定することに適していないという問題に由来するのかもしれないが、今後も研究を継続する予定である。
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