研究概要 |
話者役割の取得においては,集団内構成が大きな影響を及ぼすと考えられる。たとえば,ある参加者が特定の話者役割について高い取得率を持っていても,他により高い取得率を持つ者がいれば,後者が全体の流れの中でその役割を取得することになるであろう。さらにこのプロセスには,幅広い行動ができるかという話者役割取得レパートリーの多様性(多くの話者役割の取得率が高い)の高さが影響すると考えられる。これらが低い者は役割葛藤時に他の役割にスムーズに移行することができない。もしも役割葛藤を起こしたメンバーの双方が,話者役割取得レパートリーが乏しく,また役割調整力が低い場合は対立が表面化し,ディスカッションの展開や成果,また他のメンバーの行動にネガティブな影響を及ぼすことになる。実際,階層的役割トレース法を考案するためのサンプルデータを取った実験でも,司会を指向する2人の参加者が主導権争いと不和を起こし,他のメンバーが萎縮するという事態が観察されている。そこで,本年度前半は,話者役割タイプの特定と,それを元にした話者役割取得レパートリーを測定する尺度の作成を行った。 並行して,23年度以降の分析に必要な小集団討議の発話データを得るために,会話実験を実施した。実験では,はじめに実験参加者をアンケート室に集め,実験前アンケートに回答を求めた。アンケートは,本年度前半で作成した話者役割レパートリーを判定するSR3と,コミュニケーション参与スタイルを測定するCOMPASS(藤本,2008)から成る。その後,実験室に誘導し,ツアープランニング課題を課し,グループディスカッションを求めた。この課題は冬休みに討議集団の5人でいく1泊2日のグループ旅行を計画し,旅程表を作成するというものであった。討議時間の目安は30分間で,開始と終了の合図はベルの音で知らせ,話し合いが終了した時点で挙手するように求めた。実験後,実験参加者を再びアンケート室に誘導し,実験後アンケートとして討議中の自他の行動に関する感想の記入を求めた。
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