本課題は、遠隔地間ビデオコミュニケーション・システムを社会心理学的に評価し、将来の技術開発や産業の発展に貢献することを目標とする。 対人コミュニケーションにおいては、主たる対話チャネルである言語的音声チャネルだけではなく、非言語的情報チャネルも重視される。ところが、一般的な遠隔間ビデオ通信システムでは、利用者が3人以上になった場合に利用者間の物理的な位置関係が抽象化され、自然な身振りや視線といった非言語行動で会話の調整を行うことが難しい。顔向きや指さし行為で他の利用者に言及した場合、1台のカメラで撮影された映像が全利用者に同じく送信されるため、受信側では言及先の識別が困難だからである。そのため、利用者は本来は非言語行動を発話による言語行動で補償しようとし、不自然なコミュニケーション行動をとるようになると予想される。 このことを実証するために以下の実験を行った。意見対立するよう操作された女性3人(31組)に対話を行わせ、自他の印象を評定させた。さらに、その模様を第三者(映像と音声を視聴して評定した者10名、音声のみを聞いて評定した者5名)にも提示して印象評定を行わせた。対話当事者の評価と第三者による評価とを多面的に比較検討した結果、(1)対話当事者と第三者では同じ人物に対して抱く印象に相違があること、(2)対人位置関係が抽象化された場合でも対話当事者は言語行動の不自然さを考慮しないこと、(3)一方第三者は対人位置関係が抽象化されることによる言語行動を不自然なものと認識すること、が示された。 この結果から、将来のコミュニケーション・システム設計に際し、(a)利用者間の方向感覚に関する非言語的コミュニケーション・チャネルの利用可能性を高めること、(b)利用者本人はコミュニケーションの不自由さに気づきにくいが、傍観者からの印象は異なることに留意すること、などの提言が行える。
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