研究概要 |
価値観の多様化や将来の不透明さ等によって,学校教育段階で「学ぶことの意味・価値」を実感することが難しくなると同時に,苦痛の回避(無痛化)や努力の忌避という時代の流れの中で「学習の回避」という傾向が意欲低下に拍車をかけていると考えられる。そこで,本研究では,課題価値(学ぶ理由)とコスト(学ばない理由)の両面に注目し,それぞれが心理・社会的発達の異なる段階に由来するというモデルを構築した上で,学習者が価値実現に向けてコストを受容する動機づけ過程およびその条件・支援策を明らかにすることを目的とする。今年度は,Ecclesら(1995)などを参考にコスト認知尺度項目を試作し,教員養成課程の学生約100名を対象として予備調査を実施した。12項目を因子分析した結果,2因子が抽出され,それぞれ「価値剥奪」「不安直面」と名付けられた。すなわち,課題に取り組んでも意味や価値がないと感じる側面と,課題に取り組むことで自己の能力の限界を感じる側面が心理的なコストとして取り出された。そして,学習意欲を捉える課題価値測定尺度(伊田,2003)との関連を検討した結果,「価値剥奪」は,興味価値(楽しさ)および利用価値(有用性)と負の相関関係にあり,楽しさや有用性を感じられないほど,課題の価値を否定していることが示された。また,「不安直面」は課題を通して自己成長したと感じているほど強い傾向にあることが明らかになった。ゆえに,「不安直面」は受容されたコストと換言することができる。今後,コストが受容される条件について検討を続けたい。
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