研究概要 |
本年度は,課題価値の否定とコストの回避のメカニズムについての実証的検討を目的として,課題コスト尺度の開発を行った。具体的には,コストの心理的背景として,Maslow,A.の指摘する「知ることへのおそれ」,そしてKernberg,O.F.の「脱価値化」の機制や社会学における「価値剥奪」の概念を参考にし,パーソナリティ発達を阻むと思われる感情に焦点を当てて項目化を行った。 大学生を対象とした質問紙調査を実施し,因子分析(主因子法)により2因子を抽出した。その後,プロマックス回転を行い,第1因子を「脱価値化」,第2因子を「知ることへのおそれ」と名付け,それぞれ8項目と4項目からなる内的整合性(信頼性)の高い下位尺度を構成した。下位尺度間相関は中程度であった。 課題価値との関連を検討した結果,脱価値化については,制度的利用価値(進学・就職時の有用性),興味価値(楽しさ・おもしろさ),実践的利用価値(就職後の有用性)との間に有意な負の相関が見られた。また,知ることのおそれについては,私的獲得価値(自己の成長)との間に弱い正の相関が認められた。 以上の結果から,脱価値化については,床効果が顕著であり,各項目内容の再検討が必要であるが,課題価値との負の相関が見られ,学習を回避する程度の強いケースを捉えていると考えられる。知ることのおそれについては,課題価値の低下を招かず,自己の成長に伴う適応的な不安である可能性が示唆され,受容可能な心理的コストと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題コスト尺度の開発により,学習の回避につながる「脱価値化」の側面および「知ることへのおそれ」 を捉えることができた。また,それらと課題価値との関連について検討することができ,特に知ることへのおそれについては課題価値との共存可能性が示唆された。研究の目的にある「コストを受容する動機づけ過程およびその条件」について明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
当初は中学生・高校生についても対象に含めることを想定していたが,動機づけ概念およびコスト概念の内容を精査すると,発達段階的に大学生以上において自覚的に捉えることができるようになるものと考えられる。よって,研究の目的(特に支援策を明らかにすること)を効率的に達成するために,大学生に焦点を絞って分析・考察を深めることとしたい。
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