研究概要 |
本研究は,日本の文化・社会に特有の省略や直接表現を避けた言語表現の代表として俳句を取りあげ,俳句の理解過程および関連する個人特性,そして理解支援について包括的に検討することを目的としている。俳句の理解には省略された情報からの情報の復元・拡充が必要とされることから,内容の精緻化(具体化・吟味)に関連する読解能力と関わると考えられる。本研究の成果は,俳句と同様に情報の復元・拡充作業が必要な言語情報の理解についても適用可能であると予想される。 平成22年度は,俳句理解に関連する個人特性測定のための尺度開発研究を進めた。大学生を対象とした調査での自由記述等から質問項目75項目を作成した。これらの項目で質問紙調査を実施し,261名のデータを得た。因子分析を行ったところ,4-6程度の因子で解釈することが妥当であった。そこで暫定的に5尺度を構成し(読書回避傾向,読書熱中傾向,展開意外性受容傾向,共感重視傾向,思索専念傾向),読書経験との相関分析を行ったところ,読書熱中傾向と思索専念傾向とに正の相関が,読書回避傾向に負の相関が一貫して見られたことから,これらの尺度は一般的な読書好きの程度を複数の側面から測っている尺度と推察された。また,展開意外性受容傾向に関しては,推理作家の読了数との相関が高く,この意外性受容傾向の程度が推理小説の読解に関与している可能性が示唆された。なお,俳句の理解には省略された表現を復元ないし拡充する過程が必要であり(皆川,2005),推理小説の読解との関連性が指摘されている(深谷,2008)。来年度は,この読書態度尺度をさらに洗練させる尺度開発研究を中心に進める。
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