研究概要 |
本研究は,日本の文化・社会に特有の省略や直接表現を避けた言語表現の代表として俳句を取りあげ,俳句の理解過程および関連する個人特性,そして理解支援について包括的に検討することを目的としている。俳句の理解には省略された情報からの情報の復元・拡充が必要とされることから,内容の精緻化(具体化・吟味)に関連する読解能力と関わると考えられる。本研究の成果は,俳句と同様に情報の復元・拡充作業が必要な言語情報の理解についても適用可能であると予想される。 平成23年度は,前年度に引き続き,俳句理解に関連する個人特性測定のための尺度開発研究を進めた。読書経験・読書態度の項目について,同じ協力者に一定の時間を置いて2度回答してもらい,尺度としての信頼性について検討した。読書経験の調査2回の結果を比較したところ,既知度および読了経験ともに相関が高かったことから,指標としての信頼性は高かった。読書態度項目の調査2回の結果の比較では,相関が中~高の相関が見られた項目が多かった。2回の結果で差があった項目を見ると,共感できる登場人物の存在や困難克服などの,特定の要素へのこだわりが減り,曖昧さや不確実さへの耐性が増していると言える。これは,言わば認識論的信念が発達したとも解釈可能であり,大学生活による影響と推察される。これらの研究成果は,日本心理学会大会にて発表された。 来年度は,今年度の研究成果も踏まえ,読書態度項目とそれを用いた尺度を用いて,俳句のように復元ないし拡充が必要とされる読解との関連について精査し,俳句理解の支援のための実践的な支援方法について,研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究成果を踏まえ,開発した尺度を用いて,俳句理解の実態との関連を精査する。また,俳句理解支援として,ピアレビュー(共同推敲)の教授技法を用いることを計画しているが,この教授技法は,説明的な文章の読解や意見文の作文において一定の効果が確認されているものである(Fukaya,2003; 深谷, 2009他)。
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