本研究は,日本の文化・社会に特有の省略や直接表現を避けた言語表現の代表として俳句を取りあげ,俳句の理解過程および関連する個人特性,そして理解支援について包括的に検討することを目的としている。俳句の理解には省略された情報からの情報の復元・拡充が必要とされることから,内容の精緻化(具体化・吟味)に関連する読解能力と関わると考えられる。また,本研究の成果は,俳句と同様に情報の復元・拡充作業が必要な言語情報の理解についても適用可能であると予想される。 平成24年度は,俳句のように復元ないし拡充が必要とされる読解との関連についての研究を進めた。その際,前年度までに進めた,俳句理解に関連する個人特性測定のための尺度開発の研究成果である読書態度尺度も用いた。大学生32名を対象として,12句を呈示して好きな俳句を選択させ,その解釈について記述させた。その後,別の三名によるピアレビューを経て,選択した俳句の解釈について再度記述させた。また,前回からの変更・修正点および他者からのコメントについてのリフレクションに従事させた(以上,深谷(2009b)の教授技法を用いた)。記述の分析から,二回目の記述にはコメント内容を取り入れる修正が多くみられたが,一回目と比較して字数は減っており,俳句理解の復元・拡充の質的側面にピアレビューの効果がみられた。また,読書態度尺度では,思索専念傾向および読書熱中傾向との関連が示唆された。結果から,ピアレビューにより,俳句理解の復元・拡充過程の質的側面が支援可能であること,またその前提として,自分で予想したり考えたりするなど読者の思索専念傾向態度を保障するような環境づくりが重要であることが明らかとなったことを踏まえ,俳句理解の支援のための実践的な支援方法の示唆を得た。
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