研究概要 |
他者の行動を見ただけで,意図せず,無意識に生起する自発的特性推論(Spontaneous trait inference)に関する発達的アプローチによる検討を行う。自発的特性推論を測定するパラダイムとして,昨年度は再学習パラダイムを主に用いていたが,新たに誤再認パラダイム(false recognition paradigm)による実験刺激を作成し,実際に大学生を対象とした実験を行った。 誤再認パラダイムは,個別面接により次のような手続きで行われる。(1)まずexposure phaseにおいて多くの顔写真と行動記述文の対を参加者に提示する。このとき,行動記述文は,特性を暗示するもの(特性暗示文)と暗示しないもの(統制文)があった。(2)distracter phaseにおいて,参加者の短期記憶を混乱させるあるいは消去させる。(3)recognition phaseで顔写真と特性語の対を提示する。これはexposure phaseと対応している。参加者は,recognition phaseにて,特性語は先ほどのexposure phaseで提示された行動記述文の中にあったかどうかを,yesかnoで判別するよう求められる。基本的に正答はnoであるが,もし行動記述文が提示された時点で自発的特性推論が生起していれば,参加者は特性語が含まれていたと誤再認しやすくなる。 このような誤再認パラダイムを用いて大学生60名を対象として実験を実施した結果,ネガティブな特性を暗示する行動記述文からのみ,自発的特性推論が生じることが示された。さらに児童を対象とした調査のための予備実験を実施中である。 また,昨年度までの研究成果をまとめ,Asian Journal of Social Psychologyに"Spontaneous traitinferences among Japanese children and adults: a developmental approach"と題した論文が掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
当初は幼児も実験対象とする予定であったが,H22年度,H23年度の2年間で行った予備調査の結果からは,幼児の材料にはかなりの工夫が必要なことが分かった。今年度,さらに実験において児童を対象とし年齢を下げていくことにより,幼児用の実験材料の作成を追求するのか,あるいは児童期以降を対象としその発達プロセスを丹念に見ていくのか,方向性を見極めていく予定である。 用いるパラダイムに関しては,再学習パラダイム(savings in relearning paradigm)と手がかり再認あるいは誤再認パラダイム(false recognition paradigm)のいずれにおいても実験刺激を作成し,実際に実験を行った結果,自発的特性推論の自動的プロセスを抽出するには,誤再認パラダイムが最適であることが判明した。今後は誤再認パラダイムを用いた実験に一本化する予定である。さらに,PDP(Process Dissociation procedure)analysisを用いることにより,自発的特性推論における自動的プロセスと統制的プロセスを分離することができることが判明したため,今後は分析においてこの方法を採用することとした。
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