意図せず,自動的・自発的に,他者の行動から特性を推論する自発的特性推論(Spontaneous Trait Inference;STI)の発達プロセスについて,implicitな記憶課題であるfalse recognition paradigmを用いて検討した。計180名の5年生と大学生を対象とし,特性価(ポジティブ・ネガティブ)×頻度(高頻度・低頻度)の4パターンの刺激を用いた。すなわち,暗示される行動がポジティブかネガティブかといった特性価の要因と,日常で高い頻度で観察されやすいステレオタイプ的な行動かほとんど観察されない行動かといった頻度の要因では,いずれがSTIの生起に大きな影響を与えるのかについて検討した。 その結果,特性価の要因は,年齢にかかわらずSTIに対して大きな影響を与え,これまでの知見と一致してネガティブ特性を暗示する行動からの方が,ポジティブ特性を暗示する行動からよりも,STIを生起しやすいことが明らかになった。一方で,日常で観察される行動の頻度が高いか低いかという要因は,STIの生起に影響を与えないことが示唆された。 本結果は,対人認知研究における対応バイアス,およびステレオタイプの生起への示唆を与えうる。すなわち,人は特にネガティブな行動に接した際に,瞬時にネガティブな特性を対応づけ,ネガティブな符号化を行う傾向がある。そしてそれはおそらく自動的に行われると考えられる。人は日常でほとんど観察しないマイナーな出来事に接したからではなく,行動のもつネガティビティそのものに反応して,他者を特性によりラベリングするのである。
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