研究課題
絵を描くことの認知的な基盤について、概念イメージの生成や解体との関連に着目して認知心理学的な実験研究をおこなっている。とくに(1)なぐりがきから記号的な表象画(具体的な物を描く)への移行期、および(2)記号的な描画に対する写実的な描画という2つのフェーズに着目することで、描くことの認知的なメカニズムにアプローチする。当該年度は、(1)に関して、なぐりがきから表象画への移行期のヒト幼児に出現する「さかさ絵」についての研究を中心におこなった。「さかさ絵」は顔などの向きのある表象を倒立や90度回転した向きで描く現象であり、これまでにその実態やメカニズムについては知られていなかった。そこで、代表者らが続けてきた複数のヒト幼児を対象とした3年間の縦断的なデータから自発的な「さかさ絵」の発生頻度をまとめるとともに、「さかさ絵」を誘発する刺激図形を提示した描画実験をおこなうことにより、この時期の幼児が方向に依存しない描画空間を持っていることを明らかにした。また研究2に関しては、写実的に描くことと概念イメージの解体との関連について検証するため、デッサンの熟練者と非熟練者のヒトおとなを対象に、倒立図形、図地反転図形、錯視図形などの刺激図形を用いた模写課題を予定している。液晶タブレットPCを用いて刺激の提示と描画の記録をおこなうため、当該年度は、刺激図形の制作と描画記録用のソフトの開発を中心におこなった。また「見る」ことと「描く」ことをつなぐ認知的なメカニズムについてより客観的な分析をおこなうため、アイトラッカーによる視線データの記録を同時におこなうことにした。そのためにタブレット上の描画記録ソフトとアイトラッカーのデータを同期するソフトの開発も進めた。
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心理学評論
巻: Vol.53, No.3 ページ: 367-382