研究概要 |
「なぜ,多くの人たちは規範逸脱行動に対して否定的であるにもかかわらず,それが行動に反映されないのか」という問題について,「個人要因」と「状況要因」に着目して検討した。 まず,ゲーム理論(e.g.Axelrod, 1984)およびダイナミック社会的インパクト理論(DSIT ; Latane et al., 1994)を援用したセル・オートマトン法によるシミュレーションを行うためのコンピュータ・プログラムを作成した。そして,(個人要因に関するデータである)質問紙調査によって測定された規範逸脱行動に対する態度,および実験的に作成されたデータを,シミュレーションに入力した。 その結果,個人要因によって自らの行動を規定する確率を示す「M-prob」と,平均逸脱率の関係は,以下の3つのタイプに大別されることが示された。A.M-probの上昇と共に,平均逸脱率が直線的に増加するタイプ。B.最初はM-probの上昇と共に平均逸脱率も増加するが,次第に変化の度合いが緩やかになるタイプ。C.最初はM-probの上昇と共に平均逸脱率も増加するが,次第に増加の度合いが緩やかになり,その後は,M-probが上昇するにつれて平均逸脱率は減少するタイプ。 Cのようなタイプが示されたことから,教室における規範逸脱行動が伝搬・拡散するためには,「個々人が,自己の態度(個人要因)と周囲の人々の行動(状況要因)の双方によって自己の行動を決定すること」が,重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 なお,ダイナミック社会的インパクト理論には,前述の研究で援用された「累積的影響モデル」(Latane et al., 1994)の他に,「派閥サイズモデル」(Nowak et al., 1990)も存在する。そこで,後者のモデルに確率論的な規則を加えた場合のセルの振る舞いを検討し,その援用可能性について考察した。
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