研究概要 |
ダイナミック社会的インパクト理論(DSIT;Latane et al.,1994)を基に,ゲーム理論(e.g.Axelrod,1984)における利得行列(自己と他者における行動の組み合わせによる利得を示したもの)を組み合わせたコンピュータ・シミュレーションを行った。具体的には,メール,内職飲食,音楽(の試聴),授業と無関係の私語,授業に関する私語,という教室における6つの規範逸脱行動を扱った。そして,「自分も周囲も遵守(R)」「自分は遵守,周囲は逸脱(S)」「自分は逸脱,周囲は遵守(T)」「自分も周囲も逸脱(P)」という4つの状況に関する満足度等を質問紙調査によって測定したデータをシミュレーションに入力し,逸脱行動の頻度や学生(セル)の適応度を算出した。 その結果,「授業に関する私語」における逸脱率の最大値は,他の5つの規範逸脱行動に比べて高い値を示した。さらに,「授業に関する私語」と「内職」においては,逸脱率が高い試行ほど適応度も高い,という正の相関が示された。ただし,「授業に関する私語」では,「遵守」の行動基準を持つ者は,逸脱率と適応度の間に負の相関が示された。つまり,行動基準によって両者の関係が異なる可能性も示唆された。 また,質問紙調査によって得られたデータの分析により,「内職」や「授業に関する私語」では「逸脱」という行動基準を持つ者の数が,他の逸脱行動に比べて多い傾向も示された。そして,「逸脱」という行動基準を持つ者の逸脱頻度は,他の行動基準(「同調」等)を持つ者に比べて高い値を示した。 以上のことから,本研究におけるシミュレーションは一定の妥当性を有すると考察された。なお,これらの結果は,今年度の学会等で発表する予定である。この他,DSITのモデルの1つである「派閥サイズモデル」の特性について分析するために,「仲間集団」の影響などに着目した基礎的な検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーションおよび質問紙調査ともに,当初の計画通りに進んでいる。また,研究成果も,国内外の学会や学術論文上で着実に報告している。さらに,今までのところ,研究の進展に関わる問題も特に生じていない。以上のことから,概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に,当初の計画通りに研究を進行する。シミュレーションおよび質問紙調査によって,教室における規範逸脱行動の発生過程に対する検討を行う。特に今年度は,発達的な観点を含めて研究を行うことを計画している。また,昨年度までの研究結果については,学会等で発表する準備を進めている。 今のところ,研究計画を変更する必要性や,研究を遂行する上での問題は特に生じていない。したがって,研究期間中に,当初の目的は達成可能であると考えられる。
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